以前、久留米の情報誌 SECOND に載せてもらった コラムです
筆者:野中成利(のなか なるとし)
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はげたくはない。
父親の頭を見るたびに、そして鏡を見るたびに。
そんな風に考える男性は多いことであろう。
どうにか、 この忌まわしいDNA螺旋の呪いをとく方法なないものか。
誰かが、この鎖を断ち切ってくれぬのかと、 毎年ノーベル賞の受賞者の業績を注視するものである。 ちなみにうちは、M字に来るらしい。
”高田純次”以上”そのまんま東”未満くらいになりそうである。
高校生のときの話になる。 僕は久留米高専という工業系の学校に通っていたのだが、 その授業のなかで”熱力学”という授業があった。
熱力学とは熱を力学的なエネルギーに変換することを研究する学問 である。
例えば、自動車のエンジンはガソリンを燃焼させ、 その熱を利用することにより推進力に変換するし、 我々が使う電気も、 発電所で原子力や石油の熱エネルギーをタービンをまわすことによ り力学的エネルギーに変換し更に電力エネルギーに変換していると いった具合である。
物理学の一分野であるので、微分や積分なんてものが必要になる。
自然現象を一般的に簡単にするためには、 どうしても数式を介することになる。
理工系の学問では、 定数や変数を表すのにギリシア文字がよく使われる。
英語のアルファベットでもいいのだが、英語圏の人にはそれが、 記号なのか文字なのかが分かりづらいのでギリシア文字が使われる 。
使ったことがないという人も新型コロナウイルスの変異株を表すの にα(アルファ)株、β(ベータ)株、Δ(デルタ) 株とギリシア文字を用いるようになったので少しはなじみがでたで はないだろうか。
ちなみにギリシア文字の最初の2文字がα・ βという順番なので英語でもアルファ・ベータ→アルファベート→ アルファベットというのである。
話をもとにもどすが、熱力学はH先生が担当していた。
黒板に”κ”というギリシア文字が書かれている。
どうやら比熱比というものを表すのに”κ”を使うらしい。
ただ、問題はここからだ。
H先生は、頭頂部が薄く、 黒板に向かって文字を書くとどうしてもその部分が嫌でも目にはい るのである。そうH先生はいわゆる”河童”なのである。
先生はこうおっしゃった「比熱比κ(カッパ)は・・・」
いまなんと?
なんと”κ”は”カッパ”と読むらしい。
その後も、授業中、カッパを連発。
河童から畳み掛けられる”カッパ”。
笑ってはいけないというテレビコーナーがあるが、 これはリアルな笑ってはいけない。
理想気体の断熱変化なんか頭に入るわけはない。熱平衡よりも、 我々の精神の平衡が保てない。
河童がカッパと言っておるわ。
グムムムっと声にならない笑いをこらえるクラスメイト。
先生僕らは無理です。 そのとき悲しくなくても涙は流れるものだとわかった。
そんな、高校時代の一場面でした。
先生もシラバス(講義要目)を作るときに思ったことでしょう。
「”κ(かっぱ)”って言わなきゃいけない、俺カッパなのに」
君笑うことなかれ、人の容姿で笑うなんて人間性が低すぎる。
ですが先生、思春期の僕らにあれを笑うなというのは無理です。
どうか許してください。
学習の効果としては今でも比熱比覚えているので、 よかったのではないかと思う。
嘘か本当かわからないが、学生の本分は学業らしいので。